旭川・大雪圏の文化を紡ぐ

継承していく
文化とまちづくり

Culture

荒井建設は飲食・旅館等の関連会社とともに、
アライグループとして地域に寄り添ったデザイン経営を展開しています。
日本を代表するデザイン思考の実践者、KESIKI代表の石川俊祐さんと当社代表の荒井保明が、継承していく文化とその未来について対談しました。(2023年9月26日収録)

荒井建設株式会社 代表取締役 荒井保明

荒井建設株式会社
代表取締役 荒井保明(あらいやすあき)

旭川東高、中央大学法学部卒業後、東京で海運会社の不動産部門に就職。1986年に荒井建設入社。1992年より衆議院議員・加藤六月氏の秘書となり、1994年に荒井建設に復帰。2001年取締役社長就任。2022年に社長職を交代し、代表取締役に就任。グループ統括と公職に軸足を移す。

旭川東高、中央大学法学部卒業後、東京で海運会社の不動産部門に就職。1986年に荒井建設入社。1992年より衆議院議員・加藤六月氏の秘書となり、1994年に荒井建設に復帰。2001年取締役社長就任。2022年に社長職を交代し、代表取締役に就任。グループ統括と公職に軸足を移す。

旭川市チーフデザインプロデューサー(CDP)
株式会社KESIKI
代表取締役 石川俊祐さん(いしかわしゅんすけ)

ロンドン芸術大学連合Central St. Martins卒業後、パナソニックデザインでプロダクトデザイナーとして6年間在籍。PDD Innovations UKのCreative Leadを経て、IDEO Tokyoの設立に従事。2018年よりBCG Digital VenturesにてHead of Designとしてデザイン組織の立ち上げ、大企業社内ベンチャー創出に注力したのち、2019年KESIKI設立。Forbes Japan 世界で影響力のあるデザイナー39名に選出。「HELLO, DESIGN 日本人とデザイン」(幻冬社)の著者。2023年、旭川市の最高デザイン責任者に就任。

株式会社KESIKI 代表取締役 石川俊祐さん

ロンドン芸術大学連合Central St. Martins卒業後、パナソニックデザインでプロダクトデザイナーとして6年間在籍。PDD Innovations UKのCreative Leadを経て、IDEO Tokyoの設立に従事。2018年よりBCG Digital VenturesにてHead of Designとしてデザイン組織の立ち上げ、大企業社内ベンチャー創出に注力したのち、2019年KESIKI設立。Forbes Japan 世界で影響力のあるデザイナー39名に選出。「HELLO, DESIGN 日本人とデザイン」(幻冬社)の著者。2023年、旭川市の最高デザイン責任者に就任。

大雪山のもとで

荒井:KESIKIさんには2022年から当社のデザイン経営伴走をお願いしているわけですが、会社名は器の金継ぎ部分の「景色」が由来だそうですね。

石川:はい。フランスの辞典にタタミゼという言葉が載っています。言語学者のおじいちゃんから聞いたんですが、日本人らしい思考を身につけると人と争わない、という意味のフランス語になっている。それはもちろん日本のタタミから来ているわけなんですね。

言葉が人間の性質を決めたり、行動を変えていくという話を聞いて、我々が会社を作るときには、誇りを持って日本の文化を発信していきたいということや、また日本の企業文化がなぜ変われないのか、みたいな悩みもあったものですから。脈々と繋いできた変えるべきでないこと、そして変えねばならないこともたくさんあるはずなのに、なかなか変化ができない。

いろいろと言葉を探していたら、金継ぎに辿りついた。壊れて、割れたものを直して、それを愛でる、いい景色だなぁと言って。あ、けしきって、いいんじゃないのと(笑)。自分たちらしく変わり続ける、その時に割れることもあるかもしれないけれど、それを恐れずにいこうと。

荒井建設さんは、それこそ温泉宿の層雲閣を100年続けてきています。この歴史はたいへんなことです。

荒井:昔はやっぱり、川がしょっちゅう氾濫して、宿も水にのまれて何度もダメになって。最初は別の人がやっていたわけなんですが、これは商売にならないということで、近くで建設工事をやっていた創業者の荒井初一に継承話が持ち込まれて。ではやってみようと。

雄大な大雪山の麓にある貴重な温泉。お湯は豊富だし、お湯の質も悪くないし、これは売り込みたいと思ったんだね。まず大雪山というものをしっかりと世の中に知らしめようと、黒岳を拠点に私費で大雪山調査会を作ったり。

そのころ国も名勝地を国立公園として世界中に売り込みたいと動いていたので、初一は色々な手立てを考えて行動したようですね。ここには第七師団という大きな陸軍の部隊がいたので、人気投票に協力してもらったり、地元の画家に大雪山の油絵をたくさん描いてもらって、東京で大きな展覧会をしたり。

石川:今でいうとマーケティング!広報戦略に長けていたんですね。層雲峡は渓谷が美しくて、柱状節理という地質構造だそうですね。写真か日本画か見紛うほど素晴らしい景観です。

荒井:大雪山、そして層雲峡に人を呼び、地域を売り込んでいきたい思いが強かった。これが、アライが地域の文化を紡いでいこうという、始まりかもしれませんね。

まちなかに賑わいを

石川:旭川の食文化をけん引してきた花月会館(2017年閉業)を、荒井建設が2021年に復活させました。市民のみなさんがとても喜んだと聞いています。

荒井:花月は地域の社交場でした。おいしいものを食べて、お祝いの席といえば花月というお店だったんですけど、残念ながら時代の波というのか、破綻してしまいました。荒井建設として付き合いが長かったこともありますし、私もひいきにしていて、親交のあったところなのでね。

日本料理の拠点となる名店が旭川に無くなってしまったことも悲しくてね。中心市街地に賑わいを取り戻したい、なんとかしたいという想い。実は、120年も前の創業時から収集してきた器や什器が素晴らしいんですよ。そういったものを愛でて、使って、本物を楽しんでほしいですね。
ここを拠点に、サンロクに流れてお酒を飲んだり、仲間で集まったり、9Cホテルに泊まったりと、みなさんがまちに滞在する時間を増やしたいんです。

石川:いち企業がここまで地域のことを考えて動く、ということはなかなか無いと思っています。荒井建設はなぜそんなふうに動けるのか。意思決定ができて、現実に実行できるのか、そこがとても興味深いです。

荒井:やはり伝統ではないですかね。スクラップアンドビルドしているんですよ。
創業は米穀業です。富山から来てね。それから酒造業とか、お米を運搬する運送業とか、いろいろ始めたんですけど、時代に合わないとか、先をみて、これやめといた方がいいというのをちゃんと整理していましたから。その中で残ってきたものが建設業であり、温泉旅館であり、その流れで花月も。

建設業だけで、しかも公共事業だけでおとなしくやっていればリスクが少なくていいのかもしれませんが、それだと地域のみなさんとの接点が全くない。当社のお客さんは本来、実際に造った道路や建物を使うユーザー、つまりは住民なんです。工事を発注する国や自治体、同業者とのお付き合いだけでは、当社が目指しているところの地域への貢献や恩返し、あるいは地域ブランディングには繋がってこないと考えています。

石川:早くからデザイン経営を取り入れています。はっきりと標榜して取り組んでいる会社は、旭川ではあまり多くないですよね。

荒井:ITや科学の発達で素晴らしい答えがいろいろ出てくるけれど、突き詰めていくとそれはどの会社も同じ答えになってしまうわけで、差別化できない。だからこそ美意識が大事、人の感性に訴えることから始まるんだと、デザインの考え方からたくさん勉強させてもらいましたね。
その意識は荒井克典社長も強く持っていますし、デザイン戦略推進プロジェクトAMIの社員たちが一生懸命やってくれています。

個性が地域を照らす

石川:カルチャーデザイン(デザイン経営)に伴走させていただくなかで、コーポレートアイデンティティ(会社ロゴ等)を刷新するプロジェクトをAMIとKESIKI、そして&Formの3者が一体となって進めました。AMIが丁寧に育ててきた文化を受け止め、新たなヒアリングやワークショップを通じて、可変性のあるロゴのコンセプトに繋げていった。基本のロゴマークがありながら、3本の線で自由にAをつくる、社員ひとりひとりのロゴがあることもユニークな特徴です。

荒井:みんなのロゴを見せてもらったら斬新なものがいっぱいあって、自分がすごく平凡に思えました(笑)ある若手社員は丁張をイメージした45 度にしていたりして、すごくいいんだよ。それぞれのオリジナリティを大切にしていく企業でありたいし、感性に響く企業をつくっていきたい。

石川:AMI・KESIKI・&Formのみんなで話していたことですが、ゆくゆくはグループとして、まちのどこかでこのAを見たらアライさんの仕事だなとすぐにわかる。そんな認知に高めていくことがこれからの目標でしょうか。

荒井:そうですね。荒井建設はインフラを造ったり公共施設を建てたりしているわけですけれども、ここに暮らしているたいていの人は、そういったものを誰がどうつくっているかを知りません。普段の暮らしには関係ないわけです。

けれど私たちは、災害復旧のときにはいちばんに駆けつけて、地域のために汗を流します。グループ各社がそれぞれの役割を果たして、地域と一緒に発展していきたい。当社の役割は、地域社会の架け橋です。社員ひとりひとりの幸せが地域社会の幸福に着実に繋がるように、また当社の全員が活躍するのに充分な舞台となれるように、地域に必要とされる会社をデザインしていきたいと思っています。

ロゴコンセプト

AraiとAsahikawaのA。荒井建設・旭川市・まちで暮らす人々。その3者を3本の線で表現。重ねてきた歴史や信頼感が感じられるような潔い横のラインで荒井建設を表現し、これからのまちや人々に寄与する発展的な企業姿勢や多様性、柔軟性を縦2本のラインを自由自在に交錯しながら成長していくようなイメージで表現している。またデジタルデバイスで動的に動く表現が主流になったいま、ロゴもまたひとつの形ではなく、多様に変化していくことが時代感を捉え、前進していく荒井建設のこれからの姿勢を表現することに繋がる。

企業ロゴをすべてに汎用するだけの受動的な考えではなく、これからは各グループや部署、もしくは社員ひとりひとりに自分だけのロゴがあってもよいのではないかという能動的な考えのもと、メインの企業ロゴから派生し躍動するパーソナルロゴを制定し、名刺などのデザインにおいてのコミュニケーションにも適用していく。それによりひとりひとりが荒井建設をドライブしていく自覚を内部に促し、外部には多様なビジネス、そしてひとりひとりの個性を大切にしている多様性のある企業というイメージを打ち出すことができる。